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No.0020介護事業の人材戦略シリーズ12026-07-24

人が来ない時代の介護事業の人材戦略|採用・育成・定着を一つずつ見直す

応募が来ない、育成する余裕がない、既存職員へ負担が偏る。介護事業の厳しい人材課題を認めたうえで、採用・育成・定着を一続きで見直す人材戦略の全体像を整理します。

人が来ない時代の介護事業の人材戦略|採用・育成・定着を一つずつ見直す
介護事業の人材戦略シリーズ | 第 1

介護事業所で人材について考えるとき、最初に出てくる言葉は「採用」かもしれません。

求人を出しても応募がない。応募があっても、必要な資格や勤務条件が合わない。採用できても、教える職員に余裕がない。ようやく仕事を覚えた頃に退職してしまう。欠員を埋めるために管理者や一部の職員が現場へ入り、採用や育成を考える時間がさらに減っていく。

こうした状況で、「理想の人材像を明確にしましょう」「魅力的な求人を出しましょう」と言われても、それだけでは現実との距離を感じるのではないでしょうか。

人材戦略は、理想の人材を自由に選べる事業所だけのものではありません。むしろ、人が十分に集まらず、時間も予算も限られているときに、採用だけへ問題を集めず、現在の仕組みを一つずつ見直すための考え方です。

今回は、介護事業における人材戦略の全体像を、厳しい現実と、今から確認できることの両方から整理します。

新シリーズ

介護事業の人材戦略シリーズ

採用、受け入れ、育成、評価、配置、定着を一続きで見直す全12回のシリーズです。簡単な成功法を示すのではなく、厳しい状況の中でも減らせる行き違いと、事業所内に残っている可能性を一つずつ探します。

人材戦略は「採用人数を増やす計画」だけではない

人材戦略とは、事業所が目指すサービスを実現するために、どのような人と組織が必要かを考え、採用・育成・配置・定着などを計画的につなげる取り組みです。

大企業の人事部が作る難しい計画を想像する必要はありません。小規模な介護事業所であれば、次のような問いから始められます。

  • 半年後、どの職種が何人必要になるか
  • 現在、特定の職員だけが担当している仕事はないか
  • 未経験者を採用した場合、誰がどの順番で教えるか
  • 夜勤、訪問件数、記録業務などの負担が偏っていないか
  • 長く働いている職員は、何を理由に残ってくれているか
  • 退職した職員から、同じ理由が繰り返し聞かれていないか

人が足りないときは、求人を出すことが最優先になります。しかし、採用後の受け入れや育成、配置、定着までつながっていなければ、欠員が出るたびに同じ状況へ戻ってしまいます。

人材戦略の目的は、すべてを理想どおりにすることではありません。採用前後に起きている行き違いと、職員へ偏っている負担を見えるようにすることが最初の目的です。


介護事業の人材課題が、採用だけでは解決しない理由

介護労働安定センターの「介護労働実態調査」でも、介護事業所の人材不足、採用、離職、労働条件、職場環境などが継続的に調査されています。人材課題は一つの原因で起きるのではなく、地域、職種、事業所規模、勤務形態などによって状況が異なります。

例えば、「応募が少ない」という結果だけを見ても、背景には複数の可能性があります。

  • 地域に働き手が少ない
  • 求人情報を見つけてもらえていない
  • 給与、勤務時間、夜勤などの条件が合わない
  • 仕事内容や職場の様子が分からず、応募をためらっている
  • 公式サイトと求人票で情報が異なる
  • 応募後の連絡や面接までに時間がかかっている
  • 採用できる経験・資格の範囲が狭い
  • 未経験者を受け入れる教育体制がない

求人媒体を増やせば改善するものもあれば、求人媒体だけでは変わらないものもあります。

また、退職が続いているときも、本人の事情だけでなく、採用時の説明、入社後の受け入れ、指示のばらつき、業務負担、人間関係、キャリアの見通しなど、複数の視点が必要です。

だからこそ、人材戦略では「採用」「育成」「定着」を別々の問題として扱わず、一つの流れとして見ます。


変えられないことと、見直せることを分ける

人材課題をすべて事業所の努力不足として考えると、管理者や採用担当者が疲弊します。

地域の人口構成、介護職全体の人材需給、物価、介護報酬、人員配置基準など、一つの事業所だけでは変えられない条件があります。努力すれば必ず理想の応募者が現れる、とも言えません。

一方で、事業所内で確認・相談できることもあります。

すぐには変えにくいこと 事業所内で見直せること
地域の働き手の人数 求人を出す時期と採用経路
介護職全体の人材需給 求人票と採用ページの情報
制度上必要な人員基準 業務の分け方と教える順番
すべての応募者の経験・適性 面接や職場見学で確認する内容
職員それぞれの生活事情 勤務希望を確認する時期と方法
すべての退職を防ぐこと 退職理由を記録し、繰り返しを確認すること

ここで大切なのは、「見直せる」と「必ず解決できる」を同じ意味にしないことです。

採用ページを整えても、応募が急に増えるとは限りません。しかし、仕事内容が分からないために応募をやめる人や、入社後に「聞いていた話と違う」と感じる行き違いを減らせる可能性はあります。

入社後の受け入れや、職場に慣れるまでの支援を整えても、すべての早期退職を防げるとは限りません。しかし、初日に誰へ質問すればよいか分からず孤立する状況は、事前に減らせます。こうした入社後の適応支援は、人事分野で「オンボーディング」と呼ばれることがあります。

人材戦略は、大きな成果を約束するものではなく、防げる行き違いを一つずつ減らす取り組みと考えると、現場との距離が近くなります。


採用から定着までを6つの段階で見る

介護事業の人材戦略を、まず次の6段階に分けてみます。

1. 計画する

事業計画、利用者数、サービス種別、人員基準、現在の職員構成から、今後必要になる職種と人数を考えます。

欠員が出てから急いで求人を出すだけでなく、定年、資格取得、異動、休職、事業拡大など、分かっている変化を先に整理します。

ここでは「若くて経験豊富で、すぐ働ける人」のような理想像ではなく、仕事上必要な資格、勤務条件、役割、行動を具体的にします。

2. 知ってもらう

求人媒体だけでなく、自社サイト、採用ページ、Google検索・Googleマップ、職員や地域からの紹介など、求職者が事業所を知る入口を確認します。

自社サイトは、応募を増やす魔法ではありません。しかし、求人票だけでは伝えにくい仕事内容、一日の流れ、研修、職場の様子、応募前の疑問を補う場所になります。

情報発信の目的は、良い面だけを見せることではありません。仕事の大変さも含め、入社前に判断できる材料を用意することです。

3. 相互に確認する

応募者を一方的に選ぶだけでなく、応募者も事業所を選びます。

面接、職場見学、仕事説明では、資格や経歴に加えて、勤務時間、担当業務、教育方法、身体的な負担、記録やICTの使用など、入社後の現実を確認します。

応募が少ない状況でも、確認を省略して採用を急ぐと、早期離職や現場の負担につながる可能性があります。人物への印象だけでなく、仕事上必要な行動と条件を整理して確認します。

4. 迎え、育てる

採用が決まったら、入社日、初日、一週間、一か月、三か月の受け入れを考えます。

未経験者を採用しても、教える職員に時間がなければ育成は続きません。最初からすべての業務を覚えてもらうのではなく、どの業務から、誰が、どの基準まで教えるかを分けます。

新人だけでなく、指導する職員の負担も人材戦略の対象です。

5. 活かし、支える

資格や経験だけで配置を決めるのではなく、得意な業務、本人の希望、健康状態、安全、チーム構成、夜勤や訪問の負担などを確認します。

評価、面談、資格取得支援、キャリアパスも、職員が「何を期待され、どう成長できるか」を理解するための仕組みです。

ICTや介護ソフトも、導入すること自体が目的ではありません。二重入力や申し送りなど、職員の時間を使っている業務を見つけ、負担を減らすために使います。

6. 定着と退職から学ぶ

長く働いている職員には、残っている理由があります。給与や休日だけでなく、利用者との関係、職員同士の支え合い、仕事の裁量、通勤、勤務時間など、事業所が気付いていない強みがあるかもしれません。

退職する職員についても、本人を引き止めることだけが定着支援ではありません。同じ理由が繰り返されていないか、事業所側で変えられることがなかったかを振り返ります。

すべての退職が悪いわけではありません。円満に退職し、状況が変わったときに再び働く選択肢が残る関係も、人材とのつながりの一つです。


「採れない」から「育てられる範囲」を考える

応募者が十分に集まらないとき、経験者だけに絞れば、採用できる可能性はさらに狭くなります。一方で、「未経験者も歓迎」と書くだけでは、現場の教育負担が増えます。

必要なのは、未経験者を採用するか、しないかという二択だけではありません。

  • 入社時点で必ず必要な資格・経験は何か
  • 入社後に覚えられる業務は何か
  • 一人で任せるまで、どのくらいの期間が必要か
  • 最初は担当させない業務は何か
  • 指導担当者へ時間を確保できるか
  • マニュアル、動画、チェックリストで補える部分はあるか
  • 職員の業務を分け直すことで、新しい役割を作れないか

「理想の完成された人材を探す」だけでなく、現在の事業所が安全に受け入れ、育てられる範囲を知ることも人材戦略です。

育成できる範囲が狭いこと自体を責める必要はありません。まず現状を知り、採用条件と教育体制の食い違いを減らします。


既存職員の中にある人材戦略

人材戦略というと、新しく採用する人へ目が向きます。しかし、現在働いている職員を理解することが土台です。

長く勤務している職員や高齢の職員は、身体的な負担や将来の退職という課題だけでなく、次のような経験を持っています。

  • 利用者ごとの小さな変化に気付く視点
  • 家族や地域との関係
  • 事故やトラブルを防ぐための判断
  • 忙しい時間帯を乗り切る工夫
  • 新人がつまずきやすい場所の理解

その経験が本人の頭の中だけにあると、退職とともに失われます。体力的な負担を調整しながら、指導、相談、記録、マニュアル作成などで活かす方法を考えます。

また、現在の職員が「なぜ入社したか」「なぜ今も働いているか」を聞くと、求人票や採用ページに書かれていない事業所の強みが見つかることがあります。

新しい制度を作る前に、すでにある良い関係や工夫を言葉にすることも、人材戦略の始まりです。


人事担当者がいなくても始められる

小規模な介護事業所では、専任の人事担当者がいないことも珍しくありません。管理者、経営者、事務担当者、現場のリーダーが、採用や育成を兼務しています。

その場合、最初から詳細な人事制度や大量の管理表を作る必要はありません。

まず一枚の紙や表計算ソフトに、次の項目を書き出すだけでも構いません。

  1. 半年以内に不足しそうな職種と人数
  2. 現在、負担が集中している職員と業務
  3. 新人へ教える人と、最初に教える業務
  4. 求人票・自社サイト・Googleマップで異なる情報
  5. 最近の退職理由と、現在の職員が残っている理由

人材戦略は、立派な計画書を作った時点で始まるのではありません。頭の中にある心配を共有できる形にし、経営者、管理者、現場職員が同じ状況を見られるようにすることから始まります。

💡 H3 Incoverの考え方

人材戦略は、人が足りない現実をきれいな言葉で覆うものではありません。応募が来ない、教える余裕がない、負担が偏っているという状況を認めたうえで、事業所だけでは変えられない条件と、今日から確認できる仕組みを分けるためのものです。全部を一度に変えず、防げる行き違いを一つ減らすところから始めます。

現在地を確認する12の質問

答えられない項目があっても、すぐに問題というわけではありません。現在どこが曖昧なのかを知るために使ってください。

計画・採用

  • [ ] 半年後に必要になる職種と人数を説明できる
  • [ ] 採用時に必ず必要な条件と、入社後に育成できる部分を分けている
  • [ ] 求人票、自社サイト、Googleマップの情報が一致している
  • [ ] 応募者が仕事の大変さも含めて判断できる情報を出している

受け入れ・育成

  • [ ] 入社初日に誰が何を説明するか決まっている
  • [ ] 新人へ最初に任せる業務と、まだ任せない業務を分けている
  • [ ] 指導担当者が教えるための時間を確保できる
  • [ ] 資格取得や役割の変化を職員へ説明できる

配置・定着

  • [ ] 夜勤、訪問、記録、指導などの負担が一部の職員へ偏っていないか確認している
  • [ ] 長く働いている職員が残っている理由を聞いたことがある
  • [ ] 退職理由を記録し、同じ理由が繰り返されていないか確認している
  • [ ] 採用数だけでなく、入社後の状況も振り返っている

今日できる最初の一歩

新しい採用サービスを探す前に、現在働いている職員一人へ、次の二つを聞いてみてください。

「入社する前に、どんな情報を知りたかったですか?」
「今まで働き続けられた理由は、何だと思いますか?」

一つ目の答えは、求人票や採用ページで不足している情報を教えてくれます。二つ目の答えは、事業所がまだ言葉にできていない強みを教えてくれるかもしれません。

大きな制度を作る前に、今いる職員の経験を聞く。そこから、介護事業の人材戦略を始められます。


まとめ

介護事業の人材課題は、採用だけでは解決できません。応募が少ない背景、採用時の確認、入社後の受け入れ、教育する職員の負担、配置、評価、定着、退職後の振り返りがつながっています。

地域の働き手や制度など、事業所だけでは変えられないこともあります。一方で、求人情報の食い違い、新人が質問する相手、業務の教え方、負担の偏り、退職理由の記録など、確認できることもあります。

人材戦略は、理想どおりの人を採用するための成功法ではありません。厳しい状況の中で、採用・育成・定着の行き違いを一つずつ減らし、現在働いている職員の経験と強みを次へつなげる取り組みです。

次回は、欠員が出てから慌てて求人を始めないために、事業計画と現在の職員構成から必要な人材を整理する「要員計画」を取り上げます。


参考情報


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人材戦略を考える際は、介護サービスを利用する人の視点、ICTの役割、地域との関係づくりもあわせて考える必要があります。

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